今秋のフランス訪問の予習として取り組んでいた、ブルゴーニュの生産者の最新状況の整理が完了しました。(3ヶ月もかかってしまいました・・・)。
3月の「グラン・ジュール・ド・ブルゴーニュ」の成果も加えた、数千軒の既存生産者の情報更新を中心に、2007年や2008年がファーストヴィンテージといった新しい生産者についても、情報をすべて再整理しました。
この結果をもとに、今秋、既存取り扱い生産者、新規検討生産者合わせて約50軒を訪問してきます。
今回訪問生産者を選定するにあたって、つくづく思うことは、ブルゴーニュの優良ドメーヌはもう本当に日本に入り尽くしたなあ、ということです。
ブルゴーニュのどの村にどんな生産者がおり、どのようなワインを造っていて、ラベルデザインはどうで、価格水準はどうか、という情報は、もうほぼ100%分かっています。
日本のインポーターではあまり聞きませんが、他国のバイヤー達の一部もこの全貌把握作業を済ませています。そして、これらの既存生産者に世代交代が起こったとか、何らかの理由で味わいのスタイルが大きく変わったとか、ラベルデザインががらりと変わったとか、輸入業者が変わったとかの変化を常に追って情報を更新しつつ、たまに生まれる新しい生産者の情報についても真っ先にキャッチする努力を続けています。
インポーターの立場でここまでの作業をするのは合理性に欠けると言われればそうかもしれません。よって、ほとんどのインポーターは現地の仲介業者に生産者を紹介してもらっています。
そしてもちろん、優秀な現地の仲介業者達は、とっくの昔から全貌を把握した上で、日本のインポーターへの提案合戦を繰り広げています。
数千軒の生産者、というとなにか「無限」にあるように感じてしまいがちですが、しょせんは数千軒しかないのです。(ちなみに日本の駅の数は約9000くらいだそうです。「無限」ですか?)。
また、昨今の情報化・スピード化時代になってから、日本のインポーターに伝達される情報の質と量、そして、日本のインポーターが生産者を訪問する頻度も、「昔はなんだったのか」と思うような、それこそ全網羅的なものになっています。もう数年前からずっとそうです。
したがって、基本的には、今現在日本のインポーターが輸入していない生産者は、クオリティーや価格の面でどのインポーターも選ばなかったから入っていないのだと、もう断言できるようになりました。
特に、いわゆる主要アペラシオン(ジュヴレ、モレ、シャンボール、ヴォーヌ・ロマネ、クロ・ド・ヴージョ、ニュイ・サン・ジョルジュ、コルトン系、ポマール、ムルソー、ヴォルネー、シャサーニュ、ピュリニー)を造っている優良生産者のクオリティーの高いワインで、日本に輸入されていないものはもうありません。繰り返しになりますが、もしあったらどこかのインポーターが必ず既に輸入しています。特にブルゴーニュは、現地仲介業者、インポーター問わず各社血眼になって優良生産者を探し続けているわけですから。
余談ですが、これらの主要AOCの生産者でまだ日本に入っていない無名生産者には、同じ村の生産者達の間で、農薬や化学肥料の使用量がとりわけ多いことで知られた生産者が決まって含まれています。また、醸造上の大きな欠陥が見られる生産者も多いです。
農薬や化学肥料をたっぷりと使用したワインは、口に含んだ瞬間はいわゆる「薄旨スタイル」と勘違いしやすいのですが、じっくり試飲していくと、単に薄っぺらいだけ、もしくは単に酸っぱいだけで旨味がなく、しかも非常に固く感じます。そして抜栓後しばらくして開くのかというとそうではなく、固いままで、味がみるみるうちに落ちていきます。
全生産者把握を目指して生産者訪問を重ねていた頃、このような欠陥のあるワインを幾度となく試飲しましたが、気分が悪くなって一日中仕事にならなかったこともあり、(そりゃあいろいろ事情はあるのでしょうが)なぜ職人としてもっと真面目にワインを造ろうとしないのかと腹立たしく思ったものです。(余計なお世話でしょうが。。)
ちなみに、こういった生産者のワインが、たまに「ギド・アシェット」などに掲載されてしまうこともあるにも関わらず、日本にはほとんど輸入されておらず、また、インポーターの事情など何らかの理由で日本に輸入されたとしても、ほぼ決まって1回限りの輸入で終わってしまっていることは、結果的に、総体としてのわが国のワイン文化の健全さと、飲み手の見識の高さを表していると私は思います。
これは本当に誇るべきことです。
話を本題に戻して、先ほど 「基本的には」 、と書きましたが、ごく一部に例外があります。
★ まずシャブリ・オーセロワ地区は、シャブリ、サン・ブリ、イランシー、ブルゴーニュ・ヴェズレーなど合わせて、美味しいワインを造っている日本未輸入の無名生産者はまだ15~20人くらい存在します。しかしながら、クオリティーと価格の両面で、既に輸入されているこの地域の生産者のワインと比べてより優れているとは言えず、新たに輸入する大義を得るには至っていません。
★ フィサン、マルサネ、(クシェ村やブロション村)、及びオート・コート・ド・ニュイといった、コート・ド・ニュイ地区の相対的にマイナーなAOCの生産者には、ベテラン、中堅、新人それぞれに優良生産者がまだ少しだけいます。しかし、市場規模が相対的に小さいことと、シャブリ同様、既存輸入生産者より良いかというと疑問が残り、輸入されておりません。
★ 上記のことは、ペルナン、サヴィニー、ボーヌ、モンテリー、オーセイ・デュレス、サントーバン、サントネー、オート・コート・ド・ボーヌといった、コート・ド・ボーヌ地区の相対的にマイナーなAOCの生産者にもそのまま当てはまります。ただ、特にオート・コート・ド・ボーヌとサントネーには、既存輸入生産者にも負けない「いぶし銀」的な優良生産者がまだ結構います。
★ コート・シャロネーズ地区とマコン地区は、新世代の生産者が雨後のタケノコのように生まれています。共同組合にぶどうを売っていた栽培農家がドメーヌとして独立した、というパターンが一番多いです。ベテラン、中堅、新人問わずそれなりに品質の高いワインを造っていますが、価格がどんどん上昇していることが大きなネックになっています。
とはいえこの地域は、ヴォーヌ・ロマネ等の生産者にみられる、「ライバルのあいつのワインよりも俺のワインの方が安いということがあっていいわけはない」みたいな理不尽な値上げではなく、低価格帯ワインの生産者ゆえの、純粋な資材価格等原価の上昇による値上げが多く事情はよく理解できるのですが、ただ、販売先にユーロ圏諸国が多く、国によって程度は異なるにせよ総じてインフレであったために値上げが比較的すんなりと受け入れられてきたこと、プラス、為替の影響がないことで、あれよあれよという間に本当に急上昇してきました。
日本では市場規模が大きくないこともあって、インポーターは手を出しづらい状況が続いています。
★ ネゴシアンも、新人がどんどん生まれています。新世代のネゴシアンは、ドミニク・ローラン(スイス人)、アレックス・ガンバルやクリストファー・ニューマン(アメリカ人)、ルシアン・ル・モワンヌのソーマ(レバノン人)、仲田さん(日本人)という風にもともと国籍豊かな系譜ですが、この流れが継続して続いており、イギリス人、オランダ人、オーストラリア人、アメリカ人などによる新たな挑戦が続いています。
新しいネゴシアンが世に認められるためには、相当(ある意味ドメーヌ以上に)品質が高くなければなりませんが、ご存知のようにワインの樽売り価格がここ数年暴騰しているため、昔からの馴染みの仕入れルートをもたない新ネゴシアン達のワインの価格もおのずとすごいことになっています。しかし、志の高い誠実な造り手が多く、原油価格が下がり、ワインの需給のバランスが改善されていけば、面白くなるかもしれません。
★ 最後に、言うまでもなく、新しく生まれてくる生産者については、その中に未来の凄い生産者が含まれている可能性があります。
1. これまでは自社ビン詰めをほとんどしていなかった生産者が、息子 or 娘に世代交代して自社ビン詰めを開始した。
2. 家族も畑を持っておらず、本人もワインと関係のない仕事をしていたが、どうしてもワインを造りたくて、畑を借りるなどして自らドメーヌを興した。
3. これまではオート・コート系などマイナーなAOCしか持っておらず、細々と、しかし美味しいワインを造ってきたが、15年前にフェルマージュ(賃貸)で貸したヴォーヌ・ロマネの畑が2008年にすべて返却されることになった。
等々のケースですね。
これまでの経験からは、新人の中からだいたい40~50軒に1軒くらいの割合で、新たに日本の皆さんに紹介したいと心から思える超優良な造り手が見つかっています。打率2%ですので、新しい生産者のご紹介はおのずと超スローペースになります・・・。
尚、やや専門的になってしまいますが、弊社の生産者へのアプローチに関する補足事項として、以下のようなレアケースもあります。
★ かなり前からワインを造っているが、近年ワインの品質が著しく改善されつつあり、ヴィンテージによる差をも上回るペースで明らかに毎年良くなっていることから、日本に自信をもって輸入できる品質に達するまで、関係を暖めながら待っている。
★ コストパフォーマンスが極めて高く、かつ生産量の多い生産者で、当時は固かったヴィンテージが、ジャスト飲み頃のバックヴィンテージになるのを関係を暖めながら待っている。(極めてレアケースですが、あります)。
★ イギリス等の引き合いがあまりにも強いため強気の値付け(でしかも完売)が続いているが、なんらかのきっかけで価格が下がるようになるのを、関係を暖めながら待っている。
これらの中には、ごくわずかですが人気AOCの生産者も含まれています。(最後の隠し玉です)。
それにしても、数年前、ブルゴーニュに世代交代の大波が来て新しい優良生産者がごっそりと誕生したことを、今更ながら懐かしく思います。
世代交代は各生産者の家族構成によって任意のタイミングで起こり得ますが、ブルゴーニュのヴィニュロンの場合、世代構成的な理由からか30~35年に一度、大きな交代が起こるようです。
次の世代交代の大波が来る時、すなわち、
お母さんが浅草寺の出店で買ってくれた忍者のコスチュームがすっかりお気に入りのこの子が、たくましく成長し、「マリウス・パケ」 として独り立ちする時。
そして、
この子たちが、この時の純粋な喜びを原体験として保ち、やがてお父さんの志を継ぐ時
は、25~30年も先か・・・。
ブルゴーニュの生産者の輸入を巡る状況をざっと整理してみましたが、これほどかように、日本未輸入の優良生産者はもう残っていないのが現実です。
新商品の導入は、「目新しさ」を提案したいインポーターの「性」(さが)みたいなものですし、現に弊社も、今現在35軒程度のブルゴーニュの通常取り扱い生産者を、普通に100軒くらいまでは増やしてもいいと思っていますが、肝心の生産者がいないことには・・・。
しかし私は、だからこそ、強く思うのです。
これまで共に歩んできてくれた、従来の取引先生産者達こそを、大切にしようと。
改めて考えるまでもなく、
現在取り扱っているワインこそが、クオリティーと価格の両面から心底惚れて選び抜いたワインです。
今付き合っている彼ら彼女たちこそが、心から共感できる造り手たちです。
新しいものを、新しいものを、と思うあまり、クオリティーの低いワインを輸入するということだけは、あってはなりません。新しく輸入されたブルゴーニュワイン=「新ブルゴーニュ」では決してないのですから。
「共感できる造り手たちが誠実に造ったワインを、日本のワインファンにきちんとご紹介する」という原点に今一度立ち戻った上で、造り手たちを訪問してきます。
取引先の彼らはみんな、 「収穫の真っ最中でも来てくれて全然構わないよ」 と言ってくれてます。
今から本当に楽しみです。