まずは前回ご紹介できなかった、「選果」の様子です。
収穫後、健康で良いぶどう果実のみを選り分ける作業です。
これだけの人が真剣に選果します。良い果実のみを選別する作業がいかに大事かが分かります。
ぶどうを発酵タンクに入れると、やがて自然に発酵がはじまります。
「ルイ・シュニュ」の場合は原則として培養酵母を添加せず、天然酵母のみで自然に発酵させます。
発酵時に発生する二酸化炭素の力によって、ぶどうの果皮や種は上に押し上げられ、分厚い層ができます。これを帽子に例えて、果帽といいます。フランス語でも chapeau (シャポー、帽子)です。
この果帽と下の果汁を分離したまま放置しておくと、果帽が乾燥して固まってしまい、果皮や種に含まれる色素やタンニン、香りの成分が抽出されないので、果帽を上から突き崩す作業を行います。これを pigeage ピジャージュ といいます。
また、発酵と同時に行われるこれら一連の抽出を、macération (マセラシオン、醸し)といいます。
この作業はおよそ10日間~2週間続きます。
「ルイ・シュニュ」では、伝統的な足によるピジャージュを行っています。
果帽は分厚く、かなり固いので、相当な重労働です。
また、種がけっこう痛かったりします。(足ツボマッサージに最適で、体が妙にすっきりするとの噂もあります。)
ピジャージュを機械で行う生産者も数多くいますが、人間の手足によって行ったほうが、突き崩すべき箇所を温度によって体感できるため、よりオートクチュール的だと言われます。
こうしてアルコール発酵とマセラシオンが完了したら、果皮や種といった固体部分をプレスしてさらにワインを絞り取り(赤ワインの場合)、樽に移します。
これはセカンドヴィンテージとなる「ショレー・レ・ボーヌ 2008」を樽に移しているところです。
その後、二次発酵(マロラクティック発酵)を経て、AOCによっても異なりますが12~16ヶ月間程度樽熟成させて、ビン詰めされ、ようやく商品となります。
・・・最後は相当端折りましたが、他の多くの新世代の造り手たちと同じく、キャロリーヌの場合も、醸造は極めて原理的に、自然に、行っています。
醸造テクニックは、数限りなくあります。ボルドーは言うまでもなく、多くのブルゴーニュワインにも、多彩な醸造技術が用いられています。
まったくの個人的な見解ですが、私は、醸造技術がふんだんに盛り込まれたブルゴーニュワインの色合いや香り、味において、「自然」を感じることができません。
それはもっぱら、いわゆる有名な造り手のワインに見受けられがちなものです。
どうしても自然なものに感じられない妙にテカテカした色ツヤ、ブルゴーニュのピノノワールとは思えない濃厚パワフルさ、など、挙げればきりがありません。
歯が黒く染まってしまうワインは、大切な人と飲む気にはなれません。「あれは100年の恋も醒める」と言った友人もいますが、テーブルを挟んで相手の歯が黒く染まっているのを見た瞬間、自分も相手の目にそう映っているのだと気づき、以後、お互いに笑顔が消えてしまいます。・・・個人的にはかなり重要なポイントだと思っていますが、私だけでしょうか?
キャロリーヌたち新世代の造り手も、まったく同じことを言います。
「畑仕事が9割です。醸造は子育てと同じで、あれこれと手を加えようとするのではなく、ぶどうが本来のポテンシャルを保ったまま、自然に美味しいワインになってくれるのを見守る仕事です。」
彼女たちのワインからは、色、香り、味のすべてにおいて、私は、「自然」を感じます。
(歯も、黒くなりません。)
言い換えればそれは「優しさ」で、大自然の結晶が、同じく自然の一部である私に、滋味を伴って優しく染み入ってくるような感覚です。
それには、造っている人の自然体な生き様も、大きく関わっていると確信しています。
すべては、つながっているのだと思います。
キャロリーヌとジュリエットの姉妹は、来年2月に再来日が決定しています。
日本各地を訪問する予定ですので、どこかで会える機会があるかもしれませんね。