Nouvelles Visions

INDEX>ヴィニュロンヌの四季 ~2008~

6月

2008-06-26

Category : 未分類

なかなか更新できずにスミマセン・・・。

 

5月から6月は、気温の上昇とともに、枝や葉がどんどん成長していきます。

この時期は、余分に出た芽や梢を取り除き、伸び過ぎた枝を切って整える作業が中心になります。

「ぶどう樹はすごく速いペースで成長しますので、今は収穫期と並んで、畑での作業時間が1年でもっとも長い時期です。ぶどう樹の成長のリズムをつかみ、正しい作業を正しいタイミングで正しく行うことを心がけています。」(キャロリーヌ)

  

 

台木(根)から出た不要な枝を刈り取っているところです。

「以前よりはだいぶ慣れましたが、ブルゴーニュのぶどう樹の仕立は低いので、中腰での作業ばかりで年中腰痛です(笑)」。

(ちなみに、「ルイ・シュニュ」の仕立てはすべて、「ギュイヨ・サンプル」と呼ばれるブルゴーニュで一般的な仕立て方式です。)

 

 

 

「整枝」作業では、枝を、上中下3本ある針金のうちの真ん中の二重針金の間に挟んで固定していきます。写真は、真ん中の針金にはまだ挟めない枝を、麦わら状にしたジョン(jonc、い草の一種)で結わえる作業です。(この仕事を、だだっ広い畑全部でやるわけですから、そりゃあ腰痛にもなります・・。)

「整枝作業によって、ぶどうに日光がよく当たるようになります。また、トラクターを入れた時に、ぶどうや枝を傷つけることがなくなります」。

 

トラクターと言えば・・・写真の土は、4月に除草(雑草をとること)が完了したきれいな土ですが、「ルイ・シュニュ」では原則として除草剤は一切使用せず、すべてトラクターで除草します。また、化学肥料や、殺虫剤など除草剤以外の農薬も原則として使用しません。

「原則として」というのは、例えば大雨が続くなどしてぶどうの健康が著しく損なわれそうな場合は、必要最低限の量を使用する可能性があるという意味で、一般的にこのような考え方による栽培を「リュット・レゾネ」(直訳は「合理的な闘争」という感じで、、普通は「減農薬農法」「環境保全型農法」などと訳されます)といいます。

「リュット・レゾネ」は慣習的に使われる概念で、「ビオロジー」「オーガニック」などと比べてはるかに定義が曖昧なため、最近は多くのヴィニュロンが口を開けば「リュット・レゾネ」、または省略形で単に「レゾネ」、と言うようになってきました。「ウチの栽培はレゾネだよ」といった感じで。。

 

しかし「ルイ・シュニュ」では、「リュット・レゾネ」の概念を極めて厳格に、生真面目に適用しています。また、2007年から、一部の畑(サヴィニー村名畑とプルミエクリュ・オークルーの一部)で正式な「ビオロジー」を開始し、将来の完全ビオロジー栽培への転換を目指して、より自然な栽培への取り組みを続けています。

 

「今年のブルゴーニュは5月から6月にかけて雨がちで、気温もかなり低めでした」。6月15日頃ブルゴーニュを訪問していた知人と電話で話した際も、「寒い!」と言ってました。そのためぶどう樹の成長が例年より遅く、畑の作業もゆっくりとしたペースで行われています。

 

ちょっとさかのぼりますが、「今年のブルゴーニュの開花は6月5日前後で、雨中の開花となりました。2週間ほどしとしとと降り続いた雨が止んだ6月10日に、あちこちの畑で一気に花開きました」。

俗に「開花から100日後に収穫がはじまる」と言われますが、この経験即に従うと、今年の収穫は9月10日~20日頃と予想されます。

 

 

サービスショット(!?) 開花を喜ぶキャロリーヌ(6月10日)です。

 

1年間の畑仕事

2008-06-19

Category : 未分類

「ヴィニュロンヌの”四季”」というタイトルですが、1月~4月は畑やぶどう樹の下準備的な作業が中心で(それらも極めて重要なことに変わりありませんが・・・)、栽培のハイライトは開花してぶどうが実を結ぶ6月あたりからですので、このブログも6月の畑仕事からレポートしていきます。

 

今回は、ぶどう畑における1年間の仕事の流れをごく大雑把にまとめておきます。

「 」で括っているのは専門用語です。ワインを楽しむのにコムズカシイ専門用語はまったくもって必要ありませんが、ただ例えば、日本のワイナリーを訪問する際などに、このような用語を知っておくと造り手さんとの会話も弾み、より有意義で楽しい訪問になるかなと思いまして、一応記載しておきます。

 

尚、畑仕事についてより詳しくお知りになりたい方は、「リアルワインガイド ブルゴーニュ」(集英社インターナショナル刊/堀晶代著)のP203「畑仕事の一年 クロード・デュガの仕事を追って」に詳しく、かつコンパクトにまとめられています。

ちなみにこの本は、昨今のブルゴーニュの変化を見事にまとめた前書きにはじまって、著者がもっとも注目する30人の新世代の造り手たちについての入魂の取材レポートを読むことができ、今日の新しいブルゴーニュの姿を理解するのにとても役立ちます。「ルイ・シュニュ」をはじめとして、私たちの取引先の造り手(2008年6月現在)も17人登場します。

 

<1年間の畑仕事>

 

1月~2月

ぶどう樹の休眠期です。

「冬季剪定(とうきせんてい)」作業・・・今シーズンの収穫に向けて、ぶどう樹の仕立・整枝方法を整備し、芽の数を決定します。この年の収量を決める土台となる、重要な作業です。

(冬季剪定作業は)「一本一本個性が違うそれれぞれのブドウ樹の、その後の生き様にまで影響する「超プロの手仕事」である。」(前出「リアルワインガイド ブルゴーニュ」より)

 

3月~4月

畑の掘り起こし・・・春になり暖かくなってきましたので、 「土寄せ(つちよせ)」 (厳冬期にぶどう樹の株を霜の害から守るために、畝(うね)と畝の間の土をぶどう樹の幹の根元に寄せる作業)を解除し、土をもとに戻します。また、土壌に酸素を供給したり、雑草をとる効果もあります。

「ぶどう樹の涙」と「萌芽(ほうが)」「展葉(てんよう)」・・・眠っていたぶどう樹が目を覚まして樹液の循環がはじまり、吸い上げられた樹液が、剪定後の枝先の切り口から滴り落ちてきます。(この雫を「プルール(涙)」といいます。) この後、芽が出て、葉になっていきます。

苗木の植樹・・・前シーズンに、寿命や病気で死んでしまったぶどう樹があった場所に、新しい苗木を植えます。

 

5月~6月

気温が上がるにつれて、枝や葉がどんどん成長してきます。

「芽かき(めかき)」・・・余分な芽を取り除きます。

「除梢(じょしょう)」・・・余分な梢(こずえ、若枝)を取り除きます。

「整枝(せいし)」「誘引(ゆういん)」・・・伸びた枝を整え、ワイヤーに固定していきます。

「摘芯(てきしん)」・・・伸び過ぎた枝先を剪定します。

6月になると開花し、固い実がつきはじめます( 「結実(けつじつ)」 )。

 

7月~8月

「除葉(じょよう)」・・・ぶどうの房の周りの葉を取り除きます。これによって、ぶどうに当たる日光の量を調節したり、風通しをよくして湿度を下げ、腐敗や病気を防ぐことができるようになります。

「摘房(てきぼう)」・・・俗に言う「グリーンハーベスト」です。ぶどうの房を摘みとり、残された房に糖分などを集中させます。

8月になるとぶどうが色づきはじめます。

夏のバカンス後、収穫人の手配をしたり醸造体制を整えたりといった、収穫の準備に入ります。

 

9月~10月

収穫。

収穫後、死んだぶどう樹を引き抜きます。

紅葉~落葉。休眠へ。

 

11月~12月

「土寄せ」 (3月~4月の説明参照)。

「秋季剪定(しゅうきせんてい)」 または「予備剪定(よびせんてい)」・・・冬季剪定の準備段階として、今シーズン活躍してくれた枝を切り落とします。この時期にブルゴーニュを訪問すると、切り落とされた枝を畑で燃やす風景があちこちで見られます。

 

 

写真は、「ルイ・シュニュ」の6月の畑仕事の風景です。後ろにコルトンの丘が見えますね。

畑仕事のスタッフ数は季節によって変動し、畑での作業が1年で最も多くなる5月~7月(つまり今)は、フルタイム2名、パートタイム1名、そして常勤のキャロリーヌを合わせて、計4名で行っています。(うち3名が女性です!) 

ちなみに、このドメーヌの正式な chef de culture (シェフ・ド・キュルテュール、栽培責任者)は、今もルイ・シュニュさん(キャロリーヌのお父さん)が務めています。

 

 

 

 

新世代の造り手たち

2008-06-14

Category : 未分類

サヴィニー・レ・ボーヌにある実家のドメーヌ「Louis Chenu」を2000年に継いだキャロリーヌ・シュニュは、今日のブルゴーニュの新世代を代表するヴィニュロンヌ(女性栽培家・醸造家)です。

「ぶどうも娘も、どっちもかわいい!」というキャロリーヌは、ぶどう栽培やワイン醸造の過酷な仕事と、2人の小さい娘さん(8歳のソフィーちゃんと3歳のエルザちゃん)の育児を見事に両立させており、「毎日が本当に楽しい」といいます。

 

 

農産地であるブルゴーニュでも、過疎化が急速に進んでいます。ほとんどの若者はパリやリヨンに出て、金融機関などの大企業やIT産業への就職を希望します。後継者がいなくて廃業するドメーヌは、年々増え続けています。

そのような環境の中だからこそ、実家のドメーヌを継ぐ決断をした彼女のような才気あふれる新世代の造り手は、みんな根性が据わっています。しかしそこには、かつてのブルゴーニュのヴィニュロンたちに見られたような、農業従事者特有の悲壮感のようなものはまったく感じられず、彼ら彼女たちはむしろ、農業という仕事もひっくるめた、大自然とともにある豊かなライフスタイル自体を心から楽しんでいるように感じられます。

同世代ということもあるとは思いますが、話をしていても皆屈託がなくフレンドリーで、国籍や文化の違いすら、意識させられることはほとんどありません。着ているものも、ブランドものとかではなくみんな普段着ですが、一様におしゃれでカッコいいです。精神的な豊かさを重んじ、シンプルに美しく生きている、という印象を受けます。

そのようなライフスタイルから生まれる豊かな感性やセンス、自然体の心の構えといったものは、栽培や醸造といった仕事においても如何なく発揮され、ワインの美味しさにつながっています。2000人以上の造り手たちに会ってきましたが、これは自信をもって言えます。何事もセンス、ということだろうと思います。

 

「どんなスタイルのワインを造りたいですか?」という質問は、会う造り手全員にします。多い答えは、「テロワールが感じられるワイン」、「果実味にあふれたワイン」、「長期熟成できるワイン」などですが、彼ら新世代の造り手たちの答えはそれらとは異なり、しかも皆同じことを言います。

 

「自分が飲みたいと思うワイン」。

 

これは、自分自身が本当に美味しいと思えるワインを、胸を張って、心から自信を持って飲み手に紹介したい、という彼らの気持ちのあらわれです。そして、彼ら自身が飲みたいワインとは、香り豊かで、ピュアで優しい果実味をもった、エレガントなワインです。

 

彼らがこのような考え方をするようになったのには理由があります。

1990年代の後半から、少なくない数の従来の”有名”ドメーヌが、人によってはヴィニュロンとしての己の志や良心に反するような形で、欧米のワインジャーナリズムや巨大市場アメリカに高く評価されがちな、インパクトの強い、こってりと濃いワインをこぞって造るようになりました。

しかし2003年、イラク問題のこじれからアメリカでフランス製品の不買運動が起こり、また、この頃から、ビオロジーやスローライフへの関心の高まりと歩調を合わせる形でヨーロッパ各国で盛んになりはじめていた「エレガントなワインへの回帰」も相まって、口に含むと歯が真っ黒になるような、濃すぎるブルゴーニュワインは一気に販売苦戦に陥りました。

また、造り手自身が本当に飲みたいと思うワインのスタイルと、彼らが実際に造りジャーナリズムから極めて高い評価を受けているワインのスタイルとのあまりの乖離に、心の健康を害してしまった造り手が見られたのもこの頃でした。

ちなみに私が見聞きした限りでは、少なくともブルゴーニュのピノノワールについては、アメリカも含む主要ワイン消費各国における飲み手の嗜好が、2006年頃から、よりエレガントなスタイルのものにはっきりと変化し、今もこの変化が進んでいます。それまで濃いワインを好んでいた各国への販売に苦戦していた私たちの取引先ドメーヌも、この頃から、輸出先も販売量も急増しました。(おかげで日本への割り当てが減り、いいのか悪いのか・・・)

 

このような一連の出来事をつぶさに見てきた新しい世代の造り手たちが、醸造技術によってワインを凝縮させる愚を強く認識し、また、「選び抜かれた本物」と思われていたものそれこそが、実は単なる一時的な流行にすぎなかった、という本質(流行に左右されないのが「本物」の条件)を心に刻み付けた上で、地にしっかりと足をつけ、堂々と自分の良心と味覚にしたがってワインを造ろうと思うようになったことは、当然の帰結であったといえるでしょう。

 

2005年、生前のアンリ・ジャイエさんにお会いし、翁の話を2時間たっぷり拝聴する幸運に恵まれました。

話の終わりの方で、翁が一段と力を込めて、「新しい世代のヴィニュロンは、自分自身が飲みたいと思うワインを造るべきなのじゃ!」とおっしゃったとき、体に電流が走ったように感じました。

 

このブログでは、彼ら新世代の造り手たちをより身近に、より深く理解していただけるようにすることを目的として、毎年異なる造り手に異なる角度からスポットを当ててレポートしてみたいと思います。

 

初年度の今年は、Louis Chenuにおける栽培と醸造の1年間(残り半年間)の仕事について、キャロリーヌによる解説付きでレポートします。