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INDEX>ヴィニュロンヌの四季 ~2008~

醸造

2008-12-30

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まずは前回ご紹介できなかった、「選果」の様子です。

 

 

 

 

収穫後、健康で良いぶどう果実のみを選り分ける作業です。

これだけの人が真剣に選果します。良い果実のみを選別する作業がいかに大事かが分かります。

 

 

ぶどうを発酵タンクに入れると、やがて自然に発酵がはじまります。

「ルイ・シュニュ」の場合は原則として培養酵母を添加せず、天然酵母のみで自然に発酵させます。

 

 

発酵時に発生する二酸化炭素の力によって、ぶどうの果皮や種は上に押し上げられ、分厚い層ができます。これを帽子に例えて、果帽といいます。フランス語でも chapeau (シャポー、帽子)です。

この果帽と下の果汁を分離したまま放置しておくと、果帽が乾燥して固まってしまい、果皮や種に含まれる色素やタンニン、香りの成分が抽出されないので、果帽を上から突き崩す作業を行います。これを pigeage ピジャージュ といいます。

また、発酵と同時に行われるこれら一連の抽出を、macération (マセラシオン、醸し)といいます。

この作業はおよそ10日間~2週間続きます。

 

 

 

 

 

「ルイ・シュニュ」では、伝統的な足によるピジャージュを行っています。

果帽は分厚く、かなり固いので、相当な重労働です。

また、種がけっこう痛かったりします。(足ツボマッサージに最適で、体が妙にすっきりするとの噂もあります。)

 

ピジャージュを機械で行う生産者も数多くいますが、人間の手足によって行ったほうが、突き崩すべき箇所を温度によって体感できるため、よりオートクチュール的だと言われます。

 

 

 

 

 

こうしてアルコール発酵とマセラシオンが完了したら、果皮や種といった固体部分をプレスしてさらにワインを絞り取り(赤ワインの場合)、樽に移します。

 

 

 

 

これはセカンドヴィンテージとなる「ショレー・レ・ボーヌ 2008」を樽に移しているところです。

その後、二次発酵(マロラクティック発酵)を経て、AOCによっても異なりますが12~16ヶ月間程度樽熟成させて、ビン詰めされ、ようやく商品となります。

 

 

・・・最後は相当端折りましたが、他の多くの新世代の造り手たちと同じく、キャロリーヌの場合も、醸造は極めて原理的に、自然に、行っています。

醸造テクニックは、数限りなくあります。ボルドーは言うまでもなく、多くのブルゴーニュワインにも、多彩な醸造技術が用いられています。

 

まったくの個人的な見解ですが、私は、醸造技術がふんだんに盛り込まれたブルゴーニュワインの色合いや香り、味において、「自然」を感じることができません。

それはもっぱら、いわゆる有名な造り手のワインに見受けられがちなものです。

どうしても自然なものに感じられない妙にテカテカした色ツヤ、ブルゴーニュのピノノワールとは思えない濃厚パワフルさ、など、挙げればきりがありません。

歯が黒く染まってしまうワインは、大切な人と飲む気にはなれません。「あれは100年の恋も醒める」と言った友人もいますが、テーブルを挟んで相手の歯が黒く染まっているのを見た瞬間、自分も相手の目にそう映っているのだと気づき、以後、お互いに笑顔が消えてしまいます。・・・個人的にはかなり重要なポイントだと思っていますが、私だけでしょうか?

 

キャロリーヌたち新世代の造り手も、まったく同じことを言います。

 

「畑仕事が9割です。醸造は子育てと同じで、あれこれと手を加えようとするのではなく、ぶどうが本来のポテンシャルを保ったまま、自然に美味しいワインになってくれるのを見守る仕事です。」

 

彼女たちのワインからは、色、香り、味のすべてにおいて、私は、「自然」を感じます。

(歯も、黒くなりません。)

言い換えればそれは「優しさ」で、大自然の結晶が、同じく自然の一部である私に、滋味を伴って優しく染み入ってくるような感覚です。

それには、造っている人の自然体な生き様も、大きく関わっていると確信しています。

すべては、つながっているのだと思います。

 

 

キャロリーヌとジュリエットの姉妹は、来年2月に再来日が決定しています。

日本各地を訪問する予定ですので、どこかで会える機会があるかもしれませんね。

 

収穫

2008-11-18

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今年の「ルイ・シュニュ」の収穫は、9月25日から1週間にわたって行われました。

私たちは収穫2日目の26日にドメーヌを訪問しました。

更新が随分遅くなりましたが(・・・)、収穫の模様をレポートします。

 

 

午後1時にドメーヌに到着すると、午前の収穫を終えた収穫人たちが、昼食前のアペリティフを楽しんでいるところでした。

 

 

キャロリーヌもジュリエットも、収穫人にワインを運んだりで大忙し。

おじさんは私たちをビデオ撮影してるし・・・。

 

 

 

その後、ドメーヌに隣接するキャロリーヌの自宅のダイニングに移動して、収穫人と一緒に昼食をご馳走になりました。

 

収穫人の確保は、生産者にとって大きな課題となっています。

不法労働者を雇うことが厳しく規制されるようになったことと、身元のしっかりした収穫人も、より良い待遇をしてくれる生産者に移っていくためです。

収穫作業の大変さはどこの生産者でもそれほど大差ありませんので、「待遇」というのはもっぱら「宿泊」と「食事」のことになります。(確かに食事が美味しければ、たいていのことは我慢できますよね。)

 

「ルイ・シュニュ」の場合は、同じサヴィニー・レ・ボーヌ村内に、収穫人の宿泊用のための家を一軒購入しています。

もちろん、1年のうち収穫の前後の1~2週間しか使わないのですが、かように、収穫人の確保は極めて難しくなっています。

(ちなみにこの家の話は私も初耳で、「今度からブルゴーニュに来る時は自由に泊まっていいよ」とのことでしたので、お言葉に甘えようと思います。)

 

「料理」の方は、ケータリングをとる生産者がほとんどです。一応プロの料理ですし、それなりに美味しく不満も言われにくいものです。

しかし「ルイ・シュニュ」では、キャロリーヌとお母さんの手料理が振舞われます。

 

 

 

料理の写真です。

 

 

まずはブルゴーニュの郷土料理、ジャンボン・ペルシエから。

このハムと、パンに、アリゴテを一杯飲むのが、ブルゴーニュの伝統的な朝食です。

 

 

 

そして、ピクルス。キャロリーヌが自分の庭で育てている自家製です。

(ありえないくらい美味しくて、思わず輸入できるかと聞いてしまいました。)

 

 

 

そしてメインディッシュの、うさぎの赤ワイン煮込み。

(気持ち悪いですか?料理の写真ってほんとに難しいと、はじめて分かりました。)

お味の方はこれまた絶品で、4つも食べてしまいました。

 

 

 

日本人の私たちのために、ご飯も用意してくれてました。私たちだけでなく、収穫人のみんなも「うまいうまい」と食べてました。

 

 

 

そして、チーズに・・

 

 

 

デザートのバナナ!午後からの収穫のエネルギー源に!

 

「私たちは、25人の収穫人を雇っています。収穫人の確保は毎年難しくなってますが、ウチではリピーターがとても多いのが自慢です。ほとんどの人は、ルクセンブルグに近いフランス北部から、バカンスを兼ねて来てくれます。あの人は大手銀行の支店長、あの人は原子力発電所の技術者なんですよ(笑)。

あと、彼らの息子さんとか、お友達といった知り合いも多いです。毎年同じ方々が来てくれますので、みんな収穫技術に長けたベテラン揃いなのが、なによりありがたいです。

ジュリエットと私がまだ小さかった頃から来てくれてる人もいて、毎年この時期に「おじさん」たちに会えるのを、とても幸せに思います。」

 

 

 

また、お姉さんのジュリエットの旦那さんでブルゴーニュのトップクルティエのひとり、ブノワ・ブリュオが私たちに同席してくれ、昼食を食べながら、ブルゴーニュの最新情勢をブリーフィングしてくれました。

ちなみにこの時、 「Juliette Chenu」 セレクションの新作、Clos-Saint-Denis 1999 の試飲もさせてもらいました。

(来年1月にご紹介します。少量ですが・・・)

 

 

極めて美味しかったです。

 

 

さて、昼食の後はいよいよ午後の収穫です。

 

 

なんだかおしゃれな送迎バスです。

 

 

 

5分ほどで畑に到着。サヴィニー・レ・ボーヌ プルミエ・クリュのレ・ラヴィエールです。

昼食後でやや倦怠感が漂う雰囲気。右から3番目のスキンヘッドの人が現場監督(?)なのか、「さあ仕事だ!畑に入った入った!」と場の空気を引き締めてました。

 

 

 

収穫開始!

 

 

 

 

 

もちろん彼女たちも収穫を行います。中腰で大変な作業なのに、ここは本当にみんな和気あいあいと楽しそうに仕事してたのがとても印象的でした。

 

ちなみに収穫人の時給は毎年「県」によって決められます。今年は、時給9ユーロだそうです。

 

 

 

 

 

(ふたりとも可愛いなぁ)・・・天・地・ですから!

 

 

 

そしてこちらが、誰も覚えていないと思いますがお約束のショットです!

 

「キャロリーヌ、ちょっとそのマシンに乗ってみて。」

「これってヤラセでしょ。」

 

・・・この写真は確かにヤラセですが、いつもこんな感じでこの愛機を使いこなしています。

そして、このようなマシンに乗っている時に自然に出るこの笑顔こそが、私の知る限り、すべての(特に女性の)新世代の造り手に共通して見られる特徴で、ここに、自然体で仕事を楽しむ彼ら彼女たちの生き方がよく表れていると、私は思っています。 

 

 

そんなこんなで収穫されたぶどうは、ドメーヌへと運ばれます。

 

 

 

ぶどうが届くやいなや、除梗機にかけ、ぶどうの実と茎を分離します。

 

 

 

 

 

茎を取り除かれたぶどうの実は、そのまま発酵タンクの中へ。

 

 

 

そして、発酵がはじまり、いよいよぶどうがワインに変わっていきます。

 

 

 

夏のバカンス

2008-09-02

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ほとんどの造り手たちは、8月にバカンスをとります。

短い人で1週間、中には3週間という人も・・・。真面目なヴィニュロンは、「留守中大きな雹害に見舞われて、バカンスから帰ってみたら畑がめちゃくちゃだった・・・」なんてことにならないよう、スイスとかイタリアとか、比較的近場に行くようです。

 

シュニュ姉妹は、2人であることのメリットを生かして交替でバカンスをとっています。

今年は、お姉さんのジュリエットの家族が先にとり、7月下旬から8月上旬まで、トスカーナのカンティーナ(ワイナリー)が運営する民宿に泊まってきたそうです。脚光を浴びている「アグリツーリスモ」ですね。

妹のキャロリーヌの家族は、8月中旬に、こちらもサルディーニャ島のワイナリーのアグリツーリスモを満喫して来たそうです。

 

「イタリアワインを一生分飲んだわ・・・」という2人、彼女達のワイン造りにとっても、なにか得るものがあったのかもしれませんね。

 

 

「Wine Spectator」

2008-09-02

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インターネット版の Wine Spectator Insider」 の8月6日付号で、「ルイ・シュニュ」の

 

Savigny-lès-Beaune 1er Cru Aux Clous Rouge 2006

 

90点を獲得したという報告が、ジュリエットから届きました。

 

「ルイ・シュニュ」の2006年ヴィンテージは、どのワインも、果実のピュアさと繊細な味わいがきれいに出た「ルイ・シュニュ」らしい味わいとなりました。逆に言えば、果実の力強さが前面に出た2005年ヴィンテージと比べると、「うすく」感じるスタイルです。

「Wine Spectator」は良くも悪くもアメリカ人のワインに対する味覚が顕著に表れているワイン雑誌だと思いますが、それが90点とは・・・。

 

「ルイ・シュニュ」のワインが「Wine Spectator」に登場したのは今回が初めてではありません。かつて、以下のワインが掲載されました。

 

Savigny-lès-Beaune Vieilles Vignes Rouge 2002          86点

Savigny-lès-Beaune 1er Cru Les Lavières 2002           85点

Savigny-lès-Beaune 1er Cru Aux Clous Rouge 2003    88点

 

真ん中のLes Lavières 2002 が85点をとった時のことは今でもよく覚えていますが、数年前に「ルイ・シュニュ」を訪問した際、発売されたばかりのこの号をジュリエットから見せられて

「取引がはじまったばかりのアメリカのインポーターが頑張って宣伝してくれて、「Wine Spectator」に取り上げられたのはいいのだけど、こんなに低い点数だったわ」

と言われ(確かサヴィニー特集で、85点は多くの造り手のサヴィニーの中でも相当低い点数でした)、「逆にエレガントで美味しいことの証明になってるんじゃない?」と言って笑いあったものです。

 

「90点には本当に驚きました。私たちのワインはピュアなスタイルで、ノン・アメリカンな味わいなのですが・・・。ただ、数年前から、アメリカ人のワインに対する味覚も随分変わってきていますので、それが「Wine Spectator」にも反映されはじめたのかしら。いずれにせよ、グッドニュースです。」

 

アメリカ人が、以前のような濃厚パワフルワインではなく、よりピュアで繊細なワインを好むようになってきたことはよく知られるようになりましたが、その流れで「Wine Spectator」の評価基準も変わってきているのだとしたら、本当に歴史的な大転換だと思います。

 

7月と8月

2008-08-26

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7月の畑仕事は、ぶどうの房の周りの余分な葉や、地面にどんどん生えてくる雑草を取り除いたりして、ぶどうに当たる日光の量を調節し、風通しをよくして湿度を下げることに主眼が置かれます。

 

 

 

この雑草を・・・

 

 

 

この一台何役もこなすマシンの「鋤」の機能を使って取り除きます。

 

 

マシンで取りきれない 草は、手作業で。(・・・脚長っ!)

今でも多くの造り手が、この作業に除草剤を使用していますが、「ルイ・シュニュ」では除草剤は一切使用しません。

 

 

「は~しんどいワ~」

 

 

はい、完了!この作業を9ヘクタール(1ヘクタールは100m×100m)の畑すべてで行います。

 

 

 

8月に入ると、摘房(グリーン・ハーヴェスト)が行われます。余分なぶどうの房を摘みとり、残された房に糖分などを集中させます。(夕張メロンなどと同じことですね。)

 

 

 

 

 

「6月の開花の時期に雨がちで気温も低かったので、今年は一房あたりの粒数が少なく、また、「ミルランダージュ」と呼ばれる小粒の凝縮したぶどうが目立ちます。このまま行けば、今年はとても良いぶどうが収穫できると思います」。

ぶどう

2008-07-24

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7月23日現在のぶどう(ピノノワール)です。

 

ジャーナリスト訪問

2008-07-21

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ジャーナリストやインポーターのアテンドも、生産者の重要な仕事です。

 

7月18日、堀晶代さんとイギリスのビル・ナンソン (http://www.burgundy-report.com/) が、試飲のために「ルイ・シュニュ」を訪問されました。

堀さんに確認したところ、今回の彼女の目的は2007年ヴィンテージの試飲で、ナンソンの方は2006年ヴィンテージの試飲だったのだそうです。それで、訪問希望の日にちも同じことだし、だったら2006年と2007年を一緒に全部試飲しよう、ということで、合同での試飲となったそうです。

(尚、2007年ヴィンテージはアリゴテ以外はまだ樽熟成中ですので、バレルサンプルとしての試飲になります。)

 

 

「ルイ・シュニュ」は姉妹で運営しており、妹のキャロリーヌがぶどう栽培とワイン造りを、お姉さんのジュリエット(一番左)が国内外への営業販売を担当しています。

ちなみにジュリエットは、旦那さんとともにクルティエとしても活躍しており、2008年3月から、夫婦で発掘した特にコストパフォーマンスに秀でたワインを Juliette Chenu のブランドで紹介しています。(プロからも高い評価をいただいておりますので、見つけたらぜひお試し下さいませ)。

 

私も幾度となく「ルイ・シュニュ」を訪問しましたが、ここは毎回必ず、姉妹2人で試飲に立ち会ってくれます。

キャロリーヌは毎日畑仕事に忙殺されているので、普通のドメーヌだったら営業担当のジュリエットだけが立ち会ってくれるところですし、ジュリエットも栽培・醸造に精通していますのでそれでも十分なのですが、試飲の時間に合わせてキャロリーヌもドメーヌに戻ってきてくれます。

それは、実際にぶどう栽培とワイン造りに携わっているキャロリーヌ自身の口から、リアルタイムの現場の生情報を伝えたいという、彼女達の誠意とプロ意識の表れでもあり、またそれはある意味、この姉妹の「絆」の深さを表しているのだと理解しています。(フランスの相続制度にも問題があるのでしょうが、兄弟の仲が悪いヴィニュロンがいかに多いことか・・・)。

偶然かもしれませんが、写真の姉妹の服装も、色的になにかペアルックのようにも見えますね・・・(しかも渋い!)

 

ちなみに、アポイントの時間よりもちょっと早く到着してしまうと、畑から時間通りに帰って来るキャロリーヌを待つことになるのですが、ドッドッドッという音がだんだん大きくなってきて、やがて細身の小さな体で巨大なトラクターを運転する汗だくのキャロリーヌが現れた瞬間、、毎回のように、「ルイ・シュニュ」のインポーターとしての責任感というと大げさかもしれませんが、こんな彼女達の情熱の結晶としてのワインを、性根据えてきちんとお伝えしなければ、という使命感のようなものを、頭ではなく肌で感じる次第です。(今秋も訪問予定ですので、ちょっと早く着いて、写真撮ってきますね)。

 

・・・脱線しました・・。

 

脱線ついでにもうひとつ、堀さんとナンソンの服装にもご注目!

ボルドーの有名シャトーを訪問するのにふさわしいドレスコード(?)と比べると、ブルゴーニュは、それこそ価格交渉や割当交渉といった相当真剣な商談の場であっても、ネクタイなどする必要はさらさらないところです。特に「ルイ・シュニュ」の彼女達のような、何事にも自然体の新しい世代の造り手達にとっては、このようなカジュアルな服装で訪問した方がお互いにリラックスでき、会話も弾み、絆も深まります。(とはいえ同じカジュアルでも、堀さんとナンソンのこの清潔感のある格好は、参考になりますよね。)

 

最後にちょっとだけ本題に戻りますと・・・、

造り手にとって、ジャーナリストやインポーターとの試飲は、彼ら彼女達自身がプロの飲み手と意見交換しながら試飲できる、貴重な機会でもあります。ビン詰めが完了したワインは言うまでもなく、ちょっとの量での試飲がしやすい樽熟成中のワインであっても、造り手も(よほど心配性とかの人でない限り)それほど頻繁に自分のワインの試飲をするわけではありません。

特に新世代の造り手達は、良質なぶどうの栽培にこそ精魂を込め、醸造後はできるだけ手をかけず、良いぶどうが良いワインになってくれるのをジタバタせずに静かに見守るというスタンスの人が多いので、なおさらです。(ただし、ビン詰めのタイミングの最終決定など要所要所のハイライトの局面では、頻繁な試飲が行われます)。

 

「実は今回久しぶりに2007年の試飲をしたのですが、当初予想していたよりも遥かに美味しくなってて、とても嬉しいです。タンニンが甘く柔らかいので、口当たりはぶどう果汁のように滑らかで飲みやすいのですが、ワインとしての構造とコクはとてもしっかりしています。(2007年がファーストヴィンテージの)ショレー・レ・ボーヌもみんなで試飲しました。発売を楽しみにしててね!」(キャロリーヌ) 

 

 

6月

2008-06-26

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なかなか更新できずにスミマセン・・・。

 

5月から6月は、気温の上昇とともに、枝や葉がどんどん成長していきます。

この時期は、余分に出た芽や梢を取り除き、伸び過ぎた枝を切って整える作業が中心になります。

「ぶどう樹はすごく速いペースで成長しますので、今は収穫期と並んで、畑での作業時間が1年でもっとも長い時期です。ぶどう樹の成長のリズムをつかみ、正しい作業を正しいタイミングで正しく行うことを心がけています。」(キャロリーヌ)

  

 

台木(根)から出た不要な枝を刈り取っているところです。

「以前よりはだいぶ慣れましたが、ブルゴーニュのぶどう樹の仕立は低いので、中腰での作業ばかりで年中腰痛です(笑)」。

(ちなみに、「ルイ・シュニュ」の仕立てはすべて、「ギュイヨ・サンプル」と呼ばれるブルゴーニュで一般的な仕立て方式です。)

 

 

 

「整枝」作業では、枝を、上中下3本ある針金のうちの真ん中の二重針金の間に挟んで固定していきます。写真は、真ん中の針金にはまだ挟めない枝を、麦わら状にしたジョン(jonc、い草の一種)で結わえる作業です。(この仕事を、だだっ広い畑全部でやるわけですから、そりゃあ腰痛にもなります・・。)

「整枝作業によって、ぶどうに日光がよく当たるようになります。また、トラクターを入れた時に、ぶどうや枝を傷つけることがなくなります」。

 

トラクターと言えば・・・写真の土は、4月に除草(雑草をとること)が完了したきれいな土ですが、「ルイ・シュニュ」では原則として除草剤は一切使用せず、すべてトラクターで除草します。また、化学肥料や、殺虫剤など除草剤以外の農薬も原則として使用しません。

「原則として」というのは、例えば大雨が続くなどしてぶどうの健康が著しく損なわれそうな場合は、必要最低限の量を使用する可能性があるという意味で、一般的にこのような考え方による栽培を「リュット・レゾネ」(直訳は「合理的な闘争」という感じで、、普通は「減農薬農法」「環境保全型農法」などと訳されます)といいます。

「リュット・レゾネ」は慣習的に使われる概念で、「ビオロジー」「オーガニック」などと比べてはるかに定義が曖昧なため、最近は多くのヴィニュロンが口を開けば「リュット・レゾネ」、または省略形で単に「レゾネ」、と言うようになってきました。「ウチの栽培はレゾネだよ」といった感じで。。

 

しかし「ルイ・シュニュ」では、「リュット・レゾネ」の概念を極めて厳格に、生真面目に適用しています。また、2007年から、一部の畑(サヴィニー村名畑とプルミエクリュ・オークルーの一部)で正式な「ビオロジー」を開始し、将来の完全ビオロジー栽培への転換を目指して、より自然な栽培への取り組みを続けています。

 

「今年のブルゴーニュは5月から6月にかけて雨がちで、気温もかなり低めでした」。6月15日頃ブルゴーニュを訪問していた知人と電話で話した際も、「寒い!」と言ってました。そのためぶどう樹の成長が例年より遅く、畑の作業もゆっくりとしたペースで行われています。

 

ちょっとさかのぼりますが、「今年のブルゴーニュの開花は6月5日前後で、雨中の開花となりました。2週間ほどしとしとと降り続いた雨が止んだ6月10日に、あちこちの畑で一気に花開きました」。

俗に「開花から100日後に収穫がはじまる」と言われますが、この経験即に従うと、今年の収穫は9月10日~20日頃と予想されます。

 

 

サービスショット(!?) 開花を喜ぶキャロリーヌ(6月10日)です。

 

1年間の畑仕事

2008-06-19

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「ヴィニュロンヌの”四季”」というタイトルですが、1月~4月は畑やぶどう樹の下準備的な作業が中心で(それらも極めて重要なことに変わりありませんが・・・)、栽培のハイライトは開花してぶどうが実を結ぶ6月あたりからですので、このブログも6月の畑仕事からレポートしていきます。

 

今回は、ぶどう畑における1年間の仕事の流れをごく大雑把にまとめておきます。

「 」で括っているのは専門用語です。ワインを楽しむのにコムズカシイ専門用語はまったくもって必要ありませんが、ただ例えば、日本のワイナリーを訪問する際などに、このような用語を知っておくと造り手さんとの会話も弾み、より有意義で楽しい訪問になるかなと思いまして、一応記載しておきます。

 

尚、畑仕事についてより詳しくお知りになりたい方は、「リアルワインガイド ブルゴーニュ」(集英社インターナショナル刊/堀晶代著)のP203「畑仕事の一年 クロード・デュガの仕事を追って」に詳しく、かつコンパクトにまとめられています。

ちなみにこの本は、昨今のブルゴーニュの変化を見事にまとめた前書きにはじまって、著者がもっとも注目する30人の新世代の造り手たちについての入魂の取材レポートを読むことができ、今日の新しいブルゴーニュの姿を理解するのにとても役立ちます。「ルイ・シュニュ」をはじめとして、私たちの取引先の造り手(2008年6月現在)も17人登場します。

 

<1年間の畑仕事>

 

1月~2月

ぶどう樹の休眠期です。

「冬季剪定(とうきせんてい)」作業・・・今シーズンの収穫に向けて、ぶどう樹の仕立・整枝方法を整備し、芽の数を決定します。この年の収量を決める土台となる、重要な作業です。

(冬季剪定作業は)「一本一本個性が違うそれれぞれのブドウ樹の、その後の生き様にまで影響する「超プロの手仕事」である。」(前出「リアルワインガイド ブルゴーニュ」より)

 

3月~4月

畑の掘り起こし・・・春になり暖かくなってきましたので、 「土寄せ(つちよせ)」 (厳冬期にぶどう樹の株を霜の害から守るために、畝(うね)と畝の間の土をぶどう樹の幹の根元に寄せる作業)を解除し、土をもとに戻します。また、土壌に酸素を供給したり、雑草をとる効果もあります。

「ぶどう樹の涙」と「萌芽(ほうが)」「展葉(てんよう)」・・・眠っていたぶどう樹が目を覚まして樹液の循環がはじまり、吸い上げられた樹液が、剪定後の枝先の切り口から滴り落ちてきます。(この雫を「プルール(涙)」といいます。) この後、芽が出て、葉になっていきます。

苗木の植樹・・・前シーズンに、寿命や病気で死んでしまったぶどう樹があった場所に、新しい苗木を植えます。

 

5月~6月

気温が上がるにつれて、枝や葉がどんどん成長してきます。

「芽かき(めかき)」・・・余分な芽を取り除きます。

「除梢(じょしょう)」・・・余分な梢(こずえ、若枝)を取り除きます。

「整枝(せいし)」「誘引(ゆういん)」・・・伸びた枝を整え、ワイヤーに固定していきます。

「摘芯(てきしん)」・・・伸び過ぎた枝先を剪定します。

6月になると開花し、固い実がつきはじめます( 「結実(けつじつ)」 )。

 

7月~8月

「除葉(じょよう)」・・・ぶどうの房の周りの葉を取り除きます。これによって、ぶどうに当たる日光の量を調節したり、風通しをよくして湿度を下げ、腐敗や病気を防ぐことができるようになります。

「摘房(てきぼう)」・・・俗に言う「グリーンハーベスト」です。ぶどうの房を摘みとり、残された房に糖分などを集中させます。

8月になるとぶどうが色づきはじめます。

夏のバカンス後、収穫人の手配をしたり醸造体制を整えたりといった、収穫の準備に入ります。

 

9月~10月

収穫。

収穫後、死んだぶどう樹を引き抜きます。

紅葉~落葉。休眠へ。

 

11月~12月

「土寄せ」 (3月~4月の説明参照)。

「秋季剪定(しゅうきせんてい)」 または「予備剪定(よびせんてい)」・・・冬季剪定の準備段階として、今シーズン活躍してくれた枝を切り落とします。この時期にブルゴーニュを訪問すると、切り落とされた枝を畑で燃やす風景があちこちで見られます。

 

 

写真は、「ルイ・シュニュ」の6月の畑仕事の風景です。後ろにコルトンの丘が見えますね。

畑仕事のスタッフ数は季節によって変動し、畑での作業が1年で最も多くなる5月~7月(つまり今)は、フルタイム2名、パートタイム1名、そして常勤のキャロリーヌを合わせて、計4名で行っています。(うち3名が女性です!) 

ちなみに、このドメーヌの正式な chef de culture (シェフ・ド・キュルテュール、栽培責任者)は、今もルイ・シュニュさん(キャロリーヌのお父さん)が務めています。

 

 

 

 

新世代の造り手たち

2008-06-14

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サヴィニー・レ・ボーヌにある実家のドメーヌ「Louis Chenu」を2000年に継いだキャロリーヌ・シュニュは、今日のブルゴーニュの新世代を代表するヴィニュロンヌ(女性栽培家・醸造家)です。

「ぶどうも娘も、どっちもかわいい!」というキャロリーヌは、ぶどう栽培やワイン醸造の過酷な仕事と、2人の小さい娘さん(8歳のソフィーちゃんと3歳のエルザちゃん)の育児を見事に両立させており、「毎日が本当に楽しい」といいます。

 

 

農産地であるブルゴーニュでも、過疎化が急速に進んでいます。ほとんどの若者はパリやリヨンに出て、金融機関などの大企業やIT産業への就職を希望します。後継者がいなくて廃業するドメーヌは、年々増え続けています。

そのような環境の中だからこそ、実家のドメーヌを継ぐ決断をした彼女のような才気あふれる新世代の造り手は、みんな根性が据わっています。しかしそこには、かつてのブルゴーニュのヴィニュロンたちに見られたような、農業従事者特有の悲壮感のようなものはまったく感じられず、彼ら彼女たちはむしろ、農業という仕事もひっくるめた、大自然とともにある豊かなライフスタイル自体を心から楽しんでいるように感じられます。

同世代ということもあるとは思いますが、話をしていても皆屈託がなくフレンドリーで、国籍や文化の違いすら、意識させられることはほとんどありません。着ているものも、ブランドものとかではなくみんな普段着ですが、一様におしゃれでカッコいいです。精神的な豊かさを重んじ、シンプルに美しく生きている、という印象を受けます。

そのようなライフスタイルから生まれる豊かな感性やセンス、自然体の心の構えといったものは、栽培や醸造といった仕事においても如何なく発揮され、ワインの美味しさにつながっています。2000人以上の造り手たちに会ってきましたが、これは自信をもって言えます。何事もセンス、ということだろうと思います。

 

「どんなスタイルのワインを造りたいですか?」という質問は、会う造り手全員にします。多い答えは、「テロワールが感じられるワイン」、「果実味にあふれたワイン」、「長期熟成できるワイン」などですが、彼ら新世代の造り手たちの答えはそれらとは異なり、しかも皆同じことを言います。

 

「自分が飲みたいと思うワイン」。

 

これは、自分自身が本当に美味しいと思えるワインを、胸を張って、心から自信を持って飲み手に紹介したい、という彼らの気持ちのあらわれです。そして、彼ら自身が飲みたいワインとは、香り豊かで、ピュアで優しい果実味をもった、エレガントなワインです。

 

彼らがこのような考え方をするようになったのには理由があります。

1990年代の後半から、少なくない数の従来の”有名”ドメーヌが、人によってはヴィニュロンとしての己の志や良心に反するような形で、欧米のワインジャーナリズムや巨大市場アメリカに高く評価されがちな、インパクトの強い、こってりと濃いワインをこぞって造るようになりました。

しかし2003年、イラク問題のこじれからアメリカでフランス製品の不買運動が起こり、また、この頃から、ビオロジーやスローライフへの関心の高まりと歩調を合わせる形でヨーロッパ各国で盛んになりはじめていた「エレガントなワインへの回帰」も相まって、口に含むと歯が真っ黒になるような、濃すぎるブルゴーニュワインは一気に販売苦戦に陥りました。

また、造り手自身が本当に飲みたいと思うワインのスタイルと、彼らが実際に造りジャーナリズムから極めて高い評価を受けているワインのスタイルとのあまりの乖離に、心の健康を害してしまった造り手が見られたのもこの頃でした。

ちなみに私が見聞きした限りでは、少なくともブルゴーニュのピノノワールについては、アメリカも含む主要ワイン消費各国における飲み手の嗜好が、2006年頃から、よりエレガントなスタイルのものにはっきりと変化し、今もこの変化が進んでいます。それまで濃いワインを好んでいた各国への販売に苦戦していた私たちの取引先ドメーヌも、この頃から、輸出先も販売量も急増しました。(おかげで日本への割り当てが減り、いいのか悪いのか・・・)

 

このような一連の出来事をつぶさに見てきた新しい世代の造り手たちが、醸造技術によってワインを凝縮させる愚を強く認識し、また、「選び抜かれた本物」と思われていたものそれこそが、実は単なる一時的な流行にすぎなかった、という本質(流行に左右されないのが「本物」の条件)を心に刻み付けた上で、地にしっかりと足をつけ、堂々と自分の良心と味覚にしたがってワインを造ろうと思うようになったことは、当然の帰結であったといえるでしょう。

 

2005年、生前のアンリ・ジャイエさんにお会いし、翁の話を2時間たっぷり拝聴する幸運に恵まれました。

話の終わりの方で、翁が一段と力を込めて、「新しい世代のヴィニュロンは、自分自身が飲みたいと思うワインを造るべきなのじゃ!」とおっしゃったとき、体に電流が走ったように感じました。

 

このブログでは、彼ら新世代の造り手たちをより身近に、より深く理解していただけるようにすることを目的として、毎年異なる造り手に異なる角度からスポットを当ててレポートしてみたいと思います。

 

初年度の今年は、Louis Chenuにおける栽培と醸造の1年間(残り半年間)の仕事について、キャロリーヌによる解説付きでレポートします。